イントロダクション

 フィンランド国内で『スター・ウォーズ』『パイレーツ・オブ・カリビアン』などハリウッド大作映画をも大きく上回るフィンランド映画史上最も動員した映画がいよいよ日本に上陸する!フィンランドでは“知らない人はいないヴァイニョ・リンナの古典小説「無名戦士」を原作にした本作は、第2次世界大戦時に祖国防衛のため継続戦争をソ連軍と戦ったフィンランド兵士の壮絶な姿を描く戦争アクションだ。製作費は破格ではないものの、ハリウッド大作に劣らないほどリアルに戦場を再現。まるでドキュメンタリーフィルムを見ている錯覚にさえ陥るほどの迫力だ。1テイクに使用した爆薬の量がギネス世界記録に認定されたことで、そのスケールの大きさを感じることができる。

 フィンランドは1939年からソ連と戦った“冬戦争”が翌年に終結。その代償としてカレリア地方を含む広大な国土をソ連に占領された。国土回復を掲げ、1941年フィンランドはドイツと手を組み再びソ連との戦争を開始した。これが「継続戦争」である。戦地についた兵士たちはそれぞれの守りたいもの、帰りたい場所のためにソ連との旧国境も超えて戦い続けた。ここに「兵士達の目線」で描かれた良質かつ精巧に描かれた正統な戦争映画が誕生した。

ストーリー

 本作の原作である小説「アンノウン・ソルジャー」は“フィンランドでは知らない者がない“ヴァイニョ・リンナの戦争文学の傑作で、作者本人が経験したフィンランドの戦争=継続戦争の戦場の実相を赤裸々に描いたものである。1955年、1985年、そして本作が同じ原作で3度目の映画化となる。

 継続戦争とは、第二次世界大戦中の1941年から44年にかけて、フィンランドとソ連の間で戦われた戦争である。継続戦争に先立ち1939年から40年にかけて、ソ連によるフィンランドへの侵略、いわゆる“冬戦争”が戦われた。この戦争でフィンランドは敗れ、1941年にドイツがソ連へ侵攻。それに呼応して、フィンランドはソ連との戦争を再開した。ドイツとともにソ連に侵攻したように見えるが、フィンランドの立場からすれば、ドイツとは別の戦争、すなわち冬戦争の継続であるとして、継続戦争と呼ぶ。

 本作品は、この戦争に参加した一機関銃中隊に配属された熟練兵ロッカ(エーロ・アホ)を主人公としている。ロッカは家族と農業を営んでいたが、冬戦争でその土地がソ連に奪われたため、領土を取り戻し元の畑を耕したいと願っている。そのほかに、婚約者をヘルシンキに残して最前線で戦い、ヘルシンキで式を挙げてすぐに戦場へとんぼ返りするカリルオト(ヨハンネス・ホロパイネン)、戦場でも純粋な心を失わないヒエタネン(アク・ヒルヴィニエミ)、中隊を最後まで指揮するコスケラ(ジュシ・ヴァタネン)、この4名の兵士を軸に進んでいく。

 原作者ヴァイニョ・リンナ自身の経験から、第8歩兵連隊がそのモデルと言われる。第8歩兵連隊は継続戦争勃発を前に編成され、緒戦は冬戦争で失われた旧フィンランド領土ラドガカレリアの奪還を行い、東カレリアに侵攻、ペトロザボーツクを占領している。その後はスヴィル川の防衛線につき、1944年6月のソ連軍の大攻勢を受け止め、最後はヴィープリの防衛戦に投入された。

 映画は連隊の行動に沿ってその描写が進められている。冬戦争の犠牲を背景にした、フィンランド国内の厭戦的で旧領回復の願望とのアンビバランツな雰囲気、戦争の進展により旧国境を越えることに対して侵略者とされる理不尽。最後にはソ連軍の圧倒的な戦力によって再び戦争に敗れる痛み、これらが戦争の進展に従い赤裸々に描き出されている。「アンノウン・ソルジャー」はこうしたフィンランド民族が背負った歴史の重い十字架そのものを描写しているのである。

フィンランド戦争年表

1939年9月 ドイツのポーランド侵攻、第二次世界大戦勃発
9月~10月 ソ連バルト三国と相互援助条約締結
10月 ソ連、フィンランドにも条約交渉のための使節を派遣要求
11月 冬戦争勃発
1940年3月 冬戦争終結
4月 ドイツ軍 デンマークとノルウェー占領
5月 ドイツ軍 西方戦役開始
6月 フランス降伏
8月 ソ連、バルト三国併合
9月 領内通過協定に基づき、ドイツ軍第一陣がフィンランド到着
1941年1月 ドイツ、フィンランド地域にかかわる「銀狐」作戦を策定
2月 ドイツ、アフリカ軍団派遣
4月 ドイツ軍、ヨーゴスラビア、ギリシャ侵攻
6月 ドイツ軍、ソ連侵攻、バルバロッサ作戦開始、継続戦争勃発
9月 フィンランド軍旧国境を越えて東カレリア侵攻
10月 フィンランド軍ペトロザボーツク占領
12月 イギリス、フィンランド宣戦、ドイツ軍モスクワ攻略失敗、フィンランド軍攻勢を止め陣地戦に入る
1942年5月 ロンメルのアフリカ軍団によるリビア攻勢
6月 ドイツ軍による第二次ロシア攻勢開始
8月 ロンメルによる攻勢、アラム・ファルファの戦い
9月 ロシアでスターリングラード攻防戦始まる
10月 イギリス軍が、エル・アラメインで攻勢に出る
11月 連合軍の北アフリカ上陸、ロシア軍の攻勢によりスターリングラードで第6軍包囲される
1943年2月 スターリングラードの第6軍降伏
7月 ドイツ軍のクルスク攻勢/失敗、連合軍のシシリー上陸
8月 ソ連軍のウクライナ攻勢
9月 連合軍のイタリア本土上陸、イタリア降伏
11月 キエフ解放
1944年6月 連合軍のノルマンディ上陸、ソ連軍のカレリア攻勢、
フィンランドの単独不講和を約束するリュティからリッベントロップへの覚書が送られた、
ソ連軍のベラルーシ/ポーランド攻勢バグラチオン作戦開始
8月 マンネルヘイムがフィンランド大統領に就任、ワルシャワ蜂起
9月 フィンランド、ソ連と休戦
12月 ドイツ軍のアルデンヌ攻勢/失敗
1945年4月 ベルリン陥落
5月 ドイツ降伏
8月 日本降伏

スタッフプロフィール

アク・ロウヒミエス/監督・脚本・プロデューサー
Aku Louhimies /Director, Writer,Producer
1968年7月3日 フィンランド・ヘルシンキ生まれ。
現実を美しくかつ的確に捉えて映画を撮ることに定評のある監督であり脚本家である。過去10年の間で北欧における映画界で最も優秀な映画監督の一人としてその地位を築いた。映画・テレビでも活躍し、国内外で称賛されている。なかでも『8-Ball』(2013)、『Frozen Land』(2012)がヨーロッパ賞にノミネートされている。
本作はフィンランド最も有名な小説を基に映画化され、フィンランド映画興行で動員記録を樹立した映画作品となった。4人の子どもを持つ父親でもあるロウヒミエスは、映画という媒体をこれから生きていく人々への活力になるような作品を撮ることに関心を注いでいる。
Filmograhy
『Restless』(2000・未)
『Lovers&Leavers』(2002・未)
『Frozen Land』(2005・未)
『Man Exposed』(2006・未)
『Frozen City』(2006・未)
『4月の涙』(2008)
『Naked Hatbour』(2012・未)
『8-Ball』(2013・未)

人物相関図

武器解説

スオミ短機関銃
フィンランドが国産開発した、優秀な短機関銃で、ソ連軍のPPSh短機関銃にも影響を与えた。9mmパラベラム弾を使用し、セミオート/フルオートの切り替え式である。70発も入るドラム弾倉が特徴的である。5.45kgと少々重たいが、これによってフルオートで安定して射撃できるというメリットもあった。
モシン・ナガン小銃
帝政ロシアで開発、ロシア軍で使用された小銃だが、フィンランド独立の過程で大量に捕獲、調達され、その後フィンランド国内で同規格の小銃が順次改良されつつ国産された。7.62mm口径のボルトアクション式で、弾倉には5発が収容される。
ラフティ対戦車ライフル
フィンランドで国産開発された対戦車用ライフル。なんと20mmという大口径で、それだけ大きな威力があったが、重たく大きく何よりも極めて反動が強かった。威力が大きいといっても、所詮歩兵が携行するライフルであり、装甲が厚くなった新型のソ連戦車には歯が立たなかった。
サロランタ軽機関銃
フィンランドで国産開発された軽機関銃だが、しばしば弾詰まりを起こし、兵士にはあまり評判が良くなかった。弾倉にも20発しか入らないため、機関銃としての使い勝手も悪かった。利点は命中精度が良いことだった。
マキシム重機関銃
19世紀に開発された水冷機関銃で、世界中で使用されたベストセラー重機関銃である。フィンランド軍はやはり独立の過程でロシア軍から捕獲し、その後各国から購入、さらに国産された。とくにフィンランドの改良型として、軽量型の三脚架が採用され、弾薬ベルトがオリジナルの布製から金属製となっている。
ルガー拳銃
フィンランド軍で最も広く使用されたのが、ルガー拳銃であった。これはフィンランド軍創設に大きく貢献したドイツ帰りのイェーガー隊員が、ドイツ時代にルガーを使用していたことに起因するという。7.65mm口径が多用されたが、9mm口径も使用された。弾倉には8発が収容される。
カサパノス
戦車や敵陣地の破壊のために使用されたもので、ケースに収容した爆薬を束ねたもの、収束爆薬である。工兵将校によって開発され、工場生産された制式兵器である(現地で手作りされた物もある)。束ねた爆薬ケースに木製の柄が取り付けられ、柄の中の点火栓によって点火された。爆薬重量の異なるいくつかのバリエーションがあった。
T-26軽戦車
イギリスのビッカース6t戦車のライセンスを得て、ソ連で生産、発展型が作られた戦車で、劇中に見られるのは最終型の1939年型である。第二次世界大戦期にはもう旧式と言って良かった。冬、継続戦争中にフィンランド軍にも多数が捕獲されて使用された。
T-34中戦車
第二次世界大戦を前に開発され中戦車で、主砲に76.2mm砲を装備し、車体には傾斜装甲を採用、大出力のエンジンと幅広の履帯を備えていた。攻撃力、防御力、機動力全てに優れた傑作戦車で、世界の戦車発達史上もエポックとなった。劇中に見られるのは初期型の1940年型である。フィンランド軍も少数を捕獲して使用した。
T-34-85中戦車
第二次世界大戦中期に開発された、T-34中戦車の発展型で、ドイツ戦車の発達によって見劣りするようになった、攻撃力の強化が図られていた。武装により強力な85mm砲を、大型の新型の砲塔に装備していた。車体はほぼ同一で、防御力、機動力にはほぼ変わりはない。フィンランド軍も少数を捕獲して使用した。